うん日のへにより

もやしと豚肉を炒めたやつ

メダルゲーム

 私は小さい頃からメダルゲームが特に好きではなかった。メダルが増えて何になるのかと思うと空しかった。とはいえ周りの友達はみんなメダルゲームが好きだったので、付き合いで人並みには遊んできた。

「お兄さん、僕初めてなんだけど、メダル頂戴。」

 この子供は一週間前にもここへ来て同じことを言っていた気がする。

「君は確か、この前も来ていたよね。」

 子供は首を振る。

「弟だと思う。」

 そう言われると難しい。まあたとえ弟など存在しなかったとしても、メダル10枚くらいいいではないか。

 どうせ何の役にも立たないし。

「分かりました。少し待っていてね。」

 私は裏の倉庫からメダルを10枚持ってきて少年に渡した。

 この仕事を始めてから三ヶ月が経つ、楽な仕事ではあるが退屈でもある。大体はカウンターに座って本を読んでいる。しかし本を二時間も三時間も読んでいられるたちではないので、飽きると適当に空想に耽っている。

 あるいは眠っている。

 頭をベシベシと叩かれて、顔を上げるとそこにはゴスロリ風の女の子がいた。

「ちょっといいかしら。」

 彼女はメダルゲームをするのが初めてなのでゲーム機を一つ一つ説明してほしいと言う。

「やってみれば分かると思うので。今メダルを10枚差し上げます。」

「あなたって面倒くさがりなのね。そりゃあなたが忙しくしているというのならこっちだってこんなお願いは遠慮するわよ。でもあなたと来たら寝ていたじゃない。」

 頭を掻きむしる。なんて最近の子供は雄弁なんだ。

 結局少女にゲームを説明して回った。彼女は目を輝かせてゲームの説明を聞いていた。

 後日、カウンターへ二人の男女がやってきた。見たところ夫婦らしく、歳は40前後に見えた。大人がゲームをしにくることもままある。しかし夫婦でというのは初めて目にかかった。

「いらっしゃいませ。」

「あの、うちの娘が昨日ここへ来たらしいのだけれど。」

 どうやら昨日のゴスロリの子の両親らしい。

メダルゲームなんてしてたら将来ギャンブルにのめり込むかもしれないでしょう。」

 それはどうだろうか。メダルゲームをしていた人間の何割がその後ギャンブルを趣味とするようになるのか。

「あなたに身に覚えがないのなら、それはラグです。まだメダルゲームを経験してからギャンブルをするまでの移行がなされていないだけで、いつかはギャンブルに手を染めるのです。」

「ですからうちの娘にはもうメダルゲームをさせないでくださる?」

 そう夫人が言うと、夫は彼女の背中をさすり、私をチラリと見た。

 夜になってスーパーの店じまいがされた。私は適当にゲームセンターのごみ掃除をし、電源を落とし、倉庫に鍵をかけ、カウンターの文庫本を手に取った。廊下を歩いていると、服の裾がひっぱられた。振り向くとそこにはゴスロリの少女が立っていた。

 夜の間メダルゲームをやらせてほしいというのが彼女の要望だった。しかし小学生の女の子が親に断りもせずに夜中にゲーセンに居るのはかなり心配をかける。今頃ご両親は警察に電話をかけているかもしれない。それにもしそんなことを看過したら十中八九私はクビになるだろう。

 しかし彼女は中々引き下がらなかった。引き下がる気配を見せなかった。

 そして長いこと悶着しているうちにふと思った。まあ別にいいかもしれないと。

 私は抵抗をやめた。裏へ行って電源を入れた。そして倉庫から大量のメダルを持ってきた。

 彼女と私は銘々好きなゲームをして遊んだ。これだけメダルがあればいつまでだって遊ぶことができた。しかし夜中の二時、巡回に見つかってしまった。

 私が事情を素直に説明すると、巡回はいくつか質問をしてきた。それに対しても素直に答えると、首を傾げた後、とにかく明日店には報告すると言われた。そしてとにかく帰るように促された。

 家に帰って、手に提げたビニール袋からビールを取り出して飲んだ。

 私は何をしているんだろう。

 タバコに火を付けた。吐き出した煙を見ながら、明日から新しい仕事を探さないといけないと思った。